鉄鋼材料の損傷機構一覧表 =冶金的劣化:その1=

「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「材料特性劣化を原因とする脆性破壊や腐食損傷」をさらに詳細に分類して解説する。

損傷 解説
冶金的劣化 主に高温環境での使用によって生じる材料の冶金的変化。水素脆化は常温で起こる。
水素脆化 高強度鋼は水素原子進入による延性の低下(脆化)で脆性割れを引き起こす。鋼中への水素の混入は製作加工時、溶接時および水環境、腐食環境、ガス環境中での運転中に生じる。
水素脆化(チタン) チタンの水素吸収は冶金学的現象で、水素がチタンに拡散する、もしくは脆性水素化物相を形成する現象である。この結果、腐食の挙動や減肉なしに、延性の低下を引き起こすことになる。
水素化物脆化
水素侵食 鋼がネルソン線図上で使用限界を超えた条件下に長時間曝される場合に、水素が鋼中に侵入して結晶粒界でセメンタイト(炭化物)と反応し、メタンガスの気泡を生成して粒界割れを発生する現象で、水素アタックとも言う。脆性的な破面を示す。
脱炭 一つ以上の化学物質と反応して炭素含有合金の表面が脱炭。一般に炭素鋼や低合金鋼などの金属表面脱炭は高温酸素雰囲気で起こる。強度低下(軟化)をもたらす。
侵炭(浸炭) 高温のCO/CO2または炭化水素雰囲気で金属表面層に炭素が侵入し、金属炭化物を生成することにより延性、靭性が低下する現象である。金属表面層(浸炭層)が硬化するという特徴がある。また、浸炭層の組織は表面から内部に向けた(過共析)→共析→亜共析となる。侵入した炭素が金属と反応することによって金属炭化物を生成した結果として、割れと異常酸化を誘起する場合がある。
窒化 金属表面層に窒化物を生成することにより延性、靭性が低下する現象であり、窒化腐食とも言う。高温のアンモニアガスまたは有機窒素化合物を取り扱うプラントでは、表面で乖離した窒素が内部に侵入して固溶し、または窒化物を形成する。また、合金成分のCr、Alなどが優先的に窒化物を形成することにより、耐熱性が低下する。窒化物は脆く、温度変化により乖離して窒化がさらに促進され、著しい減肉を生じる場合がある。同時に生成される水素が内部へ侵入し、炭化物と反応してメタンを生成するので、窒化はしばしば水素侵食を伴う。窒化層の厚さは断面の元素分析と硬さ分布で調べる。
液体金属脆化 液体金属脆化は溶融金属が特別な合金と接触するときに亀裂を発生する現象である。割れは非常に突然起こり、脆性挙動を示す。
黒鉛化 427〜593℃で長期運転している炭素鋼・0.5Mo鋼の結晶構造が変化し、強度・靭性・クリープ抵抗が低下する。これらの温度で鋼中の炭化物が不安定になり、分解し黒鉛ノジュールとなる。これを黒鉛化と言う。
等温時効脆化 低合金鋼が400℃を超えて長時間使用された場合、延性、靭性が低下する現象である。微細な炭化物の析出によって起こる。
硫化物脆化 Alキルド鋼は加熱温度が1473K以上になると冷却中の1200〜1500Kの温度範囲で延性の低下は著しい。この脆化の原因は、高温加熱により固溶した硫化物や酸化物がγ粒界に(Fe,Mn)S、(Fe,Mn)Oとして再析出するためである。

冶金的劣化でお困りの問題がありましたら、MatGuideのお問い合わせページから、または直接下記へメールで、ご相談ください。

s-kihara(at)b-mat.co.jp【(at) を @ に替えて下さい。】
(株)ベストマテリア
木原重光