鉄鋼材料の損傷機構一覧表 =腐食(SCC:その3)=

「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「腐食」をさらに詳細に分類して解説する。

損傷 解説
鋭敏化割れ オーステナイト系ステンレス鋼が550〜850℃の範囲に曝されたときに、粒界にクロム炭化物が析出し、粒界近傍にクロム欠乏層ができ鋭敏化(耐食性が低下)する。鋭敏化されたステンレス鋼がSCC環境に曝されると粒界に沿った割れが発生する。
高温水割れ 高温・高圧水中でステンレス鋼、ニッケル基合金に発生する応力腐食割れ。結晶粒界に沿ってき裂が進展する粒界型応力腐食割れと結晶粒内をき裂が進展する粒内型応力腐食割れがある。
粒界型応力腐食割れ(IGSCC) 結晶粒界をき裂が進展する応力腐食割れを呼ぶ。塩化物イオン環境におけるステンレス鋼の割れが代表例である。高温・高圧水中のステンレス鋼、ニッケル基合金に認められる割れ形態でもある。結晶粒界に沿ってき裂が進展するため破面はロックキャンディー状となる。炭素含有量の比較的高いステンレス鋼の溶接熱影響部に見られるIGSCCが典型的な例であり、この場合、粒界に沿った割れとなる原因はCr炭化物が粒界に析出し、近傍でCr欠乏層が生成すること(鋭敏化)による。また、炭化物の析出処理により耐IGSCC性が向上する。ステンレス鋼またはニッケル基合金の溶接部でデンドライト境界SCC(IGSCC)という。
粒内型応力腐食割れ(TGSCC) 結晶粒内をき裂が進展する応力腐食割れを呼ぶ。高温・高圧水中のステンレス鋼、低合金鋼に認められる割れ形態であり破面は平坦で、しばしば粒内の流れ模様を伴う。最近では、低炭素ステンレス鋼製機器・配管におけるSCCの起点部で観察されている。銅合金の場合、比較的低温の水中で亜硝酸イオンが存在する場合に観察される。
照射誘起応力腐食割れ(IASCC) 照射誘起応力腐食割れは、高温・高圧水中でステンレス鋼、ニッケル基合金に観察され、外見上はIGSCCと変わらない粒界型応力腐食割れである。特徴的なことは、粒界に沿った割れ経路が中性子照射により形成されることであり、IASCCの生ずる照射量のしきい値は5x1020(n/cm2)(E>1MeV)程度とされている。中性子照射により粒界近傍では、Fe、Cr、Moの欠乏及びNi、P、Siの濃縮が起こり、割れ経路を形成すると考えられている。
粒界腐食割れ 金属の結晶粒界が選択的に腐食を受け、割れを起こす現象である。割れは粒界に沿って進展するという特徴がある。また、複数の割れが局所的ではなく、全面的に起こるという特徴がある。IGAを起点とした応力腐食が進展する場合があり、このような腐食形態をIGA/SCCという。
外面応力腐食割れ(ESCC) 外気環境からもたらされる塩化物イオンによってオーステナイト系ステンレス鋼に発生する応力腐食割れ。塩化物イオンは海洋、大気汚染物質からもたらされるが、建設、検査時に使用されるマーク用テープや浸透液などにも含まれている可能性がある。

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木原重光