クリープ損傷を防止するために

 金属材料は常温では変形、破壊の発生しない負荷条件でも、一定の温度以上では時間とともに変形が進行し、破壊に至る。これをクリープおよびクリープ破壊と呼ぶ。一般的に材料の融点(絶対温度 K)の1/2の温度以上でクリープは起きるとされている。
 これまでに述べた損傷機構のうち、疲労および腐食(応力腐食割れ)は、通常、設計において、それらの損傷が起こらないように設計条件の設定、材料の選定が行われるが、火力発電用ボイラ過熱器、蒸気およびガスタービン、加熱炉などの高温設備では、クリープを完全に回避して設計および材料選定をすることは不可能である。そこで、クリープが問題となる高温では、寿命(使用時間)を定めて、その時間の中でクリープ変形による不具合や破壊が起きないように設計条件の設定および材料選定を行うことになる。
 材料のクリープ特性は、温度ごとの一定応力下で破断に至る時間(破断寿命)、一定時間で破断する応力(温度ごと)、一定の速度でクリープ変形が進む応力(温度ごと)および温度と時間を関数とするパラメータ(ラーソン・ミラーパラメータが最も広く使われている)と応力の関係などで示される。各種材料のクリープ特性を求めるには、世界最大のクリープデータベースであるNIMS 物質・材料データベースのクリープデータベース(https://tsuge.nims.go.jp/top/creep_jp.html)を利用することを推奨する。
 高温機器の中で、ボイラおよび圧力容器は、公的機関による設計基準を基に設計される。設計基準は、各種材料に許容される応力(許容応力)を定めている。それぞれの材料のクリープ温度域では、クリープ強度を基準に許容応力が定められている。国内のボイラ、圧力容器の設計規格の基となっているJIS B8265「圧力容器の構造 一般事項」の許容応力値(クリープ温度域)は、次のうちの最も低い応力値とすると決められている。

  1. 設計温度において1000時間に0.01%のクリープひずみを生ずる応力の平均値
  2. 設計温度において100,000時間でのクリープ破断応力の平均値の67%
  3. 設計温度において100,000時間でのクリープ破断応力の最小値の80%

 上記設定基準は、米国機械学会(ASME)のBoiler & Pressure Vessel Codeの基準に準じている。この許容応力を用いて設計された高温構造物は、実際には数十万時間以上の破断寿命を有している。しかし、実際の高温機器では長期使用の中で、使用温度が設計温度より高いなどの不確定要素があり、定期的に余寿命を確認しながら運転することが必要である。
 また、クリープが問題となる高温では、材料は高温腐食(酸化)による減肉、熱膨張(差)による熱応力発生などを伴うので、これらの影響を考慮しなければならない。熱膨張係数の異なる材料(フェライト系鋼とオーステナイト系鋼)の溶接継手に生ずる熱応力によるクリープ破壊は広く知られており、このような異材溶接継手をクリープ温度域に設けないような工夫が必要である。
 応力緩和(リラクゼーション)は、クリープ変形の進展によって起こる。従って、各種残留応力はクリープ温度域での使用で除去される傾向にある。しかし、高温強度の高い材料を溶接して高温で使用する場合、高い残留応力が発生し、且つ応力緩和(クリープ変形)し難くいため、残留応力によるクリープ破壊(再熱割れ、SR割れなどと呼ばれる)が生ずることがある。そのような材料に対しては、溶接後、高温での残留応力除去焼鈍などの処理をして使用することが必要である。

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(株)ベストマテリア
木原重光