腐食損傷を防止するために

 貴金属以外の金属は、地球上に酸化物などの鉱石として存在している。実用金属材料はこれらを還元して使用しており、大気中で使用しているとエネルギー的に安定な酸化物になろうとする(酸化)。例えば、炭素鋼を大気中に放置すれば、錆が発生(酸化腐食)することになる。
 錆の発生を防ぐには、大気中の酸素と金属との接触を遮断すればよいことになる。最も広く使われている方法は塗装とメッキである。メッキは小型の精密部品などに適しており、多くの機械部品はメッキなしでは存在しないといえる。一方、塗装は、美観を損なう錆の対策のみならず、橋梁などの大きな鉄鋼構造物の腐食減肉を防ぎ、社会インフラの長期的安全・安心に貢献している。腐食防止の観点から、塗装材料および方法の選定とともに、塗装にも寿命があり、寿命管理が重要である。
 船のような水中で使われる鋼構造物の場合、塗装とともに電気防食という方法が有効である。鉄より腐食し易い金属(犠牲陽極)を鋼板に張り付け、優先的に腐食させ、鋼板の腐食を防ぐ方法である。効果を挙げるためには、陽極の面積、取り付け位置などの設計が重要であり、専門的知識が必要である。
 構造物全体を耐食性に優れた材料で作ると高価なものとなるので、安価な鋼材を使って、各種防食方法を適用して、腐食を防ぐ場合とのメリット、デメリットを十分比較して、材料選定することをお勧めする。
 耐食性に優れた材料としては、耐候性鋼、ステンレス鋼および耐食耐熱超合金(Ni合金)がある。
 耐候性鋼は、JISではG3125高耐候性圧延鋼材がそれに相当する。少量のP、Cu、Crを含む鋼材で、清浄な大気中で時間とともに均一な茶褐色の錆に覆われ、塗装せずに美観を保ち、腐食損傷も防止できる。
 耐食を考慮した材料選定では、ステンレス鋼が先ず思いつく。12mass%以上のCrを含む鉄鋼材料をステンレス鋼と定義している。ステンレス鋼はステン(錆)レス(無)の文字通り、大気中で錆が生成されない鋼材である。ステンレス鋼は、鉄より酸化しやすいCrの酸化膜(保護膜)を鋼材表面に緻密に形成させ、鉄の酸化を阻止することで、耐食性を発現している。従って、保護膜が損壊すると孔食、応力腐食割れ(SCC)などの局部的腐食が急激に進行するので、使用に当たって十分な配慮が必要である。
 ステンレス鋼として、最も広く使用されているのは、18Cr-8Ni鋼(JIS ではSUS304)である。SUS304鋼は、塩化物を含む水溶液下でSCCを起こすことが知られている。SCCの発生は、温度と塩化物イオン濃度で決まる。耐塩化物SCC性では、Moを含有するSUS316鋼が、304鋼より優れている。
 ステンレス鋼には、金属組織のよってオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、二相系、析出硬化系があり、それぞれの系の中に化学組成が異なり、耐食性が異なる鋼種が多数ある。使用目的に合わせた選定が必要である。
 高い濃度の酸など特殊な環境での腐食に対しては、耐食耐熱超合金(Ni合金)(JIS G4901,4902)を選ばなければならないケースもある。特別な環境での耐食性に対しては、JISなどの規格にない特殊な材料を特殊鋼メーカーなどが独自商品として提供していることがあり、それらのメーカーに相談することも選択肢として考えるべきである。
 高温での腐食では、化石燃料、ごみなどの燃焼による溶融塩腐食のような極めて高い腐食環境となるものがあり、高Cr材料の使用および溶射、拡散コーティングの適用などの対策が必要となる。

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木原重光